【小笠原諸島】5泊6日で鳥見旅行|父島・母島を巡ったバードウォッチング記

旅行記

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2020年2月24日から2月29日にかけて、5泊6日で小笠原諸島へ行ってきました。

目的はもちろん、バードウォッチングです。

当時は大学院1年生。

大学生活6年間の中でも、これほど大規模な鳥見旅行はありませんでした。

小笠原諸島は、東京から南へ約1,000km。

父島まで船で約24時間かかるため、思い立って日帰りで行けるような場所ではありません。

それだけに、出発前からかなり気合いが入っていました。

狙っていたのは、アカガシラカラスバト、オガサワラノスリ、ハシナガウグイス、メグロなど、小笠原ならではの鳥たち。

さらに、せっかく小笠原まで行くので、鳥だけに絞るのではなく、魚や植物、爬虫類、両生類、古生物、星など、それぞれの専門分野を持つ仲間たちと一緒に島を巡りました。

結果として、鳥見だけでは絶対に気付かなかったことをたくさん知ることができました。

それでは、本編をどうぞ!

  1. 24日:おがさわら丸に乗って小笠原へ
    1. 24時間の船旅は、意外と長い
    2. 生きもの好きが集まると、話題が尽きない
  2. 25日:父島上陸、到着前から始まる鳥見
    1. クロアシアホウドリ、ミナミハンドウイルカ、ザトウクジラ
    2. 父島に到着して最初に向かった場所
  3. 父島に着いて早々、まさかのシジュウカラガン
    1. 小笠原で食べるアオウミガメの刺身
  4. 小笠原水産センターが面白すぎる
    1. 手作り感のある展示がたまらない
  5. 小笠原海洋センターでウミガメ三昧
    1. ウミガメについて、とにかく詳しくなれる
    2. 水槽の中はウミガメだらけ
  6. 夕方の展望台でハシナガウグイスを探す
  7. とびうお桟橋でシロワニとマダラエイ
  8. 26日:ハートロックを目指して父島の森へ
    1. 森の中に広がる小笠原独自の世界
    2. 森の中に残る戦争の痕跡
    3. ついに出会ったアカガシラカラスバト
    4. ハートロックの頂上へ
    5. 夜の父島でオガサワラオオコウモリを探す
    6. 釣り組の成果をみんなで味わう
  9. 27日:母島へ、憧れのメグロを探す
    1. 外来種が目立つ母島の林道
    2. 母島に残る戦跡
    3. オガサワラヒヨドリ、そしてメグロ
    4. ははじま丸で航路探鳥
    5. 小笠原最後の夜はBBQ
  10. 28日:南島とザトウクジラ
    1. 南島へ向かう
    2. 扇池とヒロベソカタマイマイ
    3. ザトウクジラのブリーチング
  11. 28日:旅の締めくくりと、小笠原ならではの別れ
    1. 小笠原世界遺産センター
    2. ビジターセンターと世界遺産センターの違い
    3. いよいよ父島を離れる
    4. 28日:最後の航路探鳥、そして竹芝へ
  12. 29日:最後の鳥見
  13. 今回の小笠原旅行で見られた鳥
  14. 小笠原諸島へ行きたい学生へ
  15. 旅行が決まったら!周辺の空室・プランをチェック

24日:おがさわら丸に乗って小笠原へ

おがさわら丸

小笠原諸島へ向かう旅は、竹芝桟橋から始まりました。

東京から小笠原へ向かう場合、まず乗らなければならないのがおがさわら丸です。

この船に乗って父島へ向かうわけですが、何といっても小笠原旅行の特徴は、ここから約24時間かかること。

飛行機に乗って数時間で到着、という離島旅行とはまったく違います。

船そのものが旅行の一部です。

午前11時、おがさわら丸が出港。

東京の街並みを離れていくにつれて、少しずつ「本当に小笠原へ向かっているんだな」という実感が湧いてきました。

ここから先は、しばらく陸地とはお別れです。

そして、小笠原旅行で意外と重要なのが、船内でどう過ごすかという問題でした。

24時間の船旅は、意外と長い

おがさわら丸では、航行中に安定したインターネット環境を期待することはできません。

有人島などに近付いたときに通信できることはありますが、基本的にはオフラインの世界です。

普段ならスマートフォンを眺めていれば、それなりに時間を潰せます。

しかし、ネットが使えないとなると話は別。

しかも往復で考えれば、約48時間です。

小笠原旅行では、船内で何をするかを事前に考えておいた方がいいと思います。

ただし、鳥を見る人にとっては、日中に限ればそれほど暇ではありません。

むしろ、船が動いている限り「何か飛んでこないかな」と海を眺め続けることになります。

航路上では海鳥が出現する可能性があります。

デッキに出て双眼鏡を構え、海面や空をひたすら眺める。

鳥が出れば観察し、何も出なければまた探す。

これを繰り返していると、時間は意外と早く過ぎていきます。

夜になると、今度は同行した仲間たちとボードゲーム。

さらに船内を探検したり、話をしたりして過ごしました。

せっかくの小笠原旅行なので、船旅そのものも楽しもうというスタンスです。

↓もどうぞ!

小笠原諸島とおがさわら丸でWi-Fiは使える?
小笠原諸島の島内はネット環境が整っているが、おがさわら丸は絶望的。往復48時間の船旅で、具体的に何をするか事前に決めておくのが良い。

生きもの好きが集まると、話題が尽きない

今回の旅行で面白かったのが、同行したメンバーの専門分野がバラバラだったことです。

私は鳥担当。

それ以外にも魚を専門にしている人、植物を専門にしている人、古生物や爬虫類・両生類に詳しい人、星を専門にしている人、化学分析を専門にしている人などがいました。

  1. 鳥:私
  2. 水生生物(特に魚):1人(超ガチ)
  3. 植物:1人
  4. 古生物,爬虫類,両生類:1人(超ガチ)
  5. 植物:1人
  6. 星:1人
  7. 化学分析:2人

同じ「生きもの好き」でも、専門が変わると見ているものがまったく違います。

私が鳥を見ている横で、魚の専門家が海の中の生きものについて語る。

植物を専門にしている人は、道端に生えている植物を見ている。

古生物好きは、地形や化石の話になる。

鳥だけを見ていたら素通りしていたものが、仲間の一言によって突然面白いものに変わっていきます。

小笠原のように、そう何度も行けない場所では、こうしたメンバー構成はかなり大きなメリットだったと思います。

一人で鳥だけを追いかける旅行も楽しいのですが、専門の違う人たちと行くことで、同じ場所にいても持ち帰れる情報量が大きく変わります。

そんなことを感じながら、おがさわら丸での1日目を終えました。

25日:父島上陸、到着前から始まる鳥見

翌朝。

小笠原諸島が近付いてきたことで、船内にも少しずつ到着前の空気が漂い始めていました。

私は起床すると、身支度を整えて双眼鏡とカメラを持ってデッキへ。

ここからが本番です。

……と思っていたのですが、実際には父島へ到着する前から、すでに大満足でした。

クロアシアホウドリ、ミナミハンドウイルカ、ザトウクジラ

クロアシアホウドリ
最も近かったクロアシアホウドリ

デッキに出て最初に目を奪われたのが、クロアシアホウドリです。

海上を飛ぶクロアシアホウドリが次々と現れ、ダイナミックに滑空していきます。

飛翔する姿を眺めているだけでも十分に楽しいのですが、さらにミナミハンドウイルカの群れまで登場。

海面からジャンプする姿を見せてくれました。

そして、さらに追い打ちをかけるようにザトウクジラ。

ザトウクジラのブリーチング
ザトウクジラのブリーチング

ブリーチングまで披露してくれました。

まだ父島に到着していません。

それなのに、すでに「今回の旅行、来た意味があったな」と思えるほどの出来事が続きます。

さすが小笠原。

島に着く前からスケールが違います。

鳥を見ていると、周囲の乗客も次々にデッキへ出てきました。

当然のように、

「何かいるんですか?」

と聞かれます。

そこで始まるのが、即席のアホウドリ類解説コーナーです。

どの鳥が何なのか、どうやって見分けるのかなどを説明していると、そこから自然と話が広がっていきました。

普段なら接点のない人たちと、海鳥をきっかけに話ができる。

こういう偶然も、長時間の船旅ならではです。

そして、午前11時。

ついに父島の二見港へ到着しました。

父島に到着して最初に向かった場所

下船すると、今回お世話になる宿のオーナーが迎えに来てくれていました。

荷物を宿に置かせてもらい、まず向かったのが小笠原ビジターセンターです。

小笠原ビジターセンターの看板
入口

いきなり鳥見に行ってもよかったのですが、まずは島の生きものについて予習しておきたかったからです。

小笠原ビジターセンターには、小笠原諸島の自然や歴史に関する展示があります。

鳥屋として特に気になるのは、やはり剥製。

アカガシラカラスバト、メグロ、オガサワラノスリなど、小笠原を代表する鳥たちが並んでいます。

アカガシラカラスバトの剥製
アカガシラカラスバトの剥製

どれも今回の旅行で見たいと思っていた鳥です。

実物を見る前に剥製で姿を確認しておくと、現地で探す際にもイメージがしやすくなります。

特にアカガシラカラスバトは、今回の旅でどうしても見たかった鳥の一つ。

「絶対に見てやる」

そんな気持ちを強くしながら、ビジターセンターを後にしました。

そして、ここから父島での鳥見が始まります。

父島に着いて早々、まさかのシジュウカラガン

ムナグロ

ビジターセンターを出た後、近くの砂浜周辺で鳥を探すことにしました。

まず目に入ったのはムナグロ。

波打ち際で休んでいます。

そして、その中に一羽だけ、明らかに雰囲気の違う鳥がいました。

防波堤に止まっています。

双眼鏡を向けた瞬間、

「えっ……?」

となりました。

シジュウカラガンです。

シジュウカラガン
シジュウカラガン:本当になんで?笑

いや、なぜここに?

小笠原に来て最初に見る鳥がシジュウカラガンとは、想像していませんでした。

しかも、ビジターセンターで「小笠原ならではの鳥を見たい」と意気込んだ直後です。

まさか最初に出てくるのが、そこではない鳥とは。

「えっ、なんで?」

という感想しか出てきません。

それでも、見た瞬間にシジュウカラガンだと識別できた自分には、ちょっと拍手を送りたいところです。

まさか小笠原でシジュウカラガンを見ることになるとは。

脳汁が出すぎて、この時点で帰ってもいいような気分になりました。

もちろん、まだ旅行初日です。

帰るわけにはいきません。

その後もキョウジョシギなどを観察しながら歩きます。

キョウジョシギ
キョウジョシギ

そして、もう一つ印象的だったのがイソヒヨドリ。

本土では普通に見られる鳥ですが、小笠原では「普通にいる鳥」という感覚がより強く感じられました。

本土のスズメを見るような感覚でイソヒヨドリがいる。

こうした島ならではの鳥相の違いも面白いところです。

小笠原で食べるアオウミガメの刺身

アオウミガメの刺身定食
ウミガメの刺し身

鳥見を一度切り上げ、昼食へ。

仲間と合流して向かったのは「波食波食」です。

ここで注文したのが、アオウミガメの刺身定食。

小笠原まで来たからには、ぜひ食べてみたいと思っていたものの一つでした。

実際に食べてみると、臭みはほとんどありません。

食感や味の印象としては、馬刺しに近い感じでした。

冷凍されていたため臭みが出にくかった可能性もありますが、想像していたよりもずっと食べやすい。

かなり美味しかったです。

小笠原に来たからこそ食べられるものを実際に味わう。

こういう経験も、旅行の大きな楽しみです。

食事を終えた後は、仲間たちと別れて行動することになりました。

釣りをする組と、園館などを巡る組です。

私はもちろん後者。

ここからは、小笠原の水生生物を見に行きます。

小笠原水産センターが面白すぎる

小笠原水産センター

次に向かったのは、小笠原水産センター。

個人的には、今回の小笠原旅行でかなり楽しみにしていた場所の一つでした。

何しろ、小笠原水産センターへ行くこと自体が一つのイベントです。

日本国内には数多くの水族館がありますが、ここほど訪問するハードルが高い施設もそうありません。

週に一度程度しか航行しない船に乗り、東京から約24時間かけて小笠原へ来る。

そして、ようやく実際に訪れることができる。

そんな場所です。

期待が膨らまないわけがありません。

手作り感のある展示がたまらない

床にくっつくクロコバン

館内に入ってみると、非常にシンプルな雰囲気でした。

水槽の内装も派手ではありません。

解説も手書きのものが多く、いわゆる大型水族館のような華やかさとは違います。

しかし、私はこういう展示が好きです。

竹島水族館や桂浜水族館にも通じるような、手作り感があります。

展示されている生きものも興味深いものばかり。

床にくっつくように張り付いているクロコバン。

アオウミガメの子どもとの混泳。

水槽
アオウミガメの子どもも混泳

シュモクザメの幼体。

シュモクザメの赤ちゃんの標本
シュモクザメの幼体

タツノオトシゴ。

「こんなものまでいるのか」と思いながら、一つ一つの水槽を眺めていきました。

特に印象に残ったのが、他ではなかなか見られないような標本類です。

小笠原という場所そのものが特殊なので、展示されているものにも独自性があります。

それを間近で見られるだけでも十分に面白い。

しかも入館無料。

「これ無料でいいの?」

と思ってしまうくらいでした。

もちろん、褒め言葉です。

外にはウミガメのプールもあります。

アカウミガメ
アカウミガメ

アカウミガメなどが飼育されていて、小笠原においてウミガメがいかに身近な存在なのかを感じることができました。

水族館のような華やかな演出がなくても、そこでしか見られないものがあれば十分に楽しめます。

むしろ、小笠原水産センターは「小笠原に来たからこそ見られるもの」が詰まっているところに魅力があると思います。

小笠原海洋センターでウミガメ三昧

小笠原海洋センター
小笠原海洋センター

水産センターの次に向かったのが、小笠原海洋センターです。

こちらは小笠原諸島の水生生物、特にアオウミガメやザトウクジラなどの調査・保全に関わる施設です。

館内にはパネル展示と生体展示があり、それぞれ違った面白さがありました。

ウミガメについて、とにかく詳しくなれる

ウミガメの剥製
古生物大好きマンによる実演

パネル展示では、ウミガメの生態や繁殖、鯨類などについて紹介されています。

捕鯨に関する展示もあり、小笠原と海との関わりを考えるきっかけになる内容でした。

ウミガメ類の剥製も複数展示されていて、甲羅の中に入って観察できるような展示もあります。

こういう体験型の展示は、実際の体の構造をイメージするのに分かりやすいですね。

同行者には古生物好きもいたので、こうした展示を見ながら生きものの体の構造について話す時間も非常に面白かったです。

水槽の中はウミガメだらけ

ウミガメの水槽

屋外の生体展示も印象的でした。

ネットが張られた水槽が並んでいて、その中にはウミガメがいます。

水面から顔を出している個体もいれば、ゆっくり泳いでいる個体もいます。

アオウミガメだけではなく、アカウミガメやタイマイなども飼育されていました。

ウミガメ
アオウミ,アカウミ,タイマイを飼育

さらに、餌を購入してウミガメに与えることもできます。

子どもを連れてきたら、かなり喜ぶだろうなと思います。

それにしても、これだけウミガメを間近で見られると、小笠原におけるウミガメの存在感がよく分かります。

東京から1,000km離れた島まで来たからこそ見ることのできる光景です。

夕方の展望台でハシナガウグイスを探す

父島の景色
めっちゃ綺麗

園館巡りを終えた後、仲間と別れて展望台へ向かいました。

ここで狙っていたのが、ハシナガウグイスです。

小笠原諸島に生息するウグイスの亜種で、名前の通り嘴が細長いことが特徴です。

ただし、相手はウグイス。

観察の難易度はかなり高い鳥です。

声は聞こえても、姿が見えない。

姿を見つけても、すぐに草むらへ消えてしまう。

ましてや夕暮れ時。

条件としては、かなり厳しいものでした。

それでも、周囲を歩きながら探し続けます。

耳を澄ましていると、ようやく地鳴きが聞こえました。

しかし、声はすれども姿は見えません。

そこで、しゃがんでじっと待つことにしました。

すると、草の隙間から何かが動きます。

ようやく姿を確認。

ハシナガウグイスです。

ハシナガウグイス
亜種ハシナガウグイス

ほんの一瞬でしたが、確かに見ることができました。

写真としては決して満足できるものではありません。

しかし、現地で実際に見られたことの方が重要です。

嘴が細長いことも何となく分かりましたし、足の色も本土のウグイスと比較すると淡いように見えました。

こういう細かな特徴を、実際の野外で確認できるのはやはり楽しいものです。

今回は囀りを聞くことはできませんでした。

次に小笠原へ行く機会があれば、ぜひ囀る時期に観察してみたいと思います。

ウグイス類の観察は難しいからこそ、姿を確認できた瞬間の達成感があります。

そして、ここから夜の小笠原へ。

とびうお桟橋でシロワニとマダラエイ

シロワニ
シロワニ:ジオロケーターを付けた個体もいた

夕食後、向かったのがとびうお桟橋です。

昼間は観光船や漁船などが係留されている普通の桟橋ですが、夜になると雰囲気が変わります。

海中を覗いてみると、シロワニやマダラエイが泳いでいます。

特に印象的だったのがシロワニ。

名前に「ワニ」と付いていますが、もちろんワニではなくサメの仲間です。

しかも、かなり大型になります。

そんなシロワニが、桟橋のすぐ近くを泳いでいる。

小笠原に来る前に写真などで存在は知っていましたが、実際に目の前で見ると迫力が違います。

さらに、このシロワニは絶滅が危惧されている種です。

それほど貴重なサメが、夜の桟橋から普通に観察できる。

「小笠原ってすごいな」と改めて感じる瞬間でした。

マダラエイも海底をゆっくりと泳ぎ回っています。

それらが泳いでいる様子をどうぞ!

Banzoku@鷺師 (@Egretta_thula) on X
ついでに動画も。とびうお桟橋が化け物じみてることが、よくわかります。#ダーウィンが来た #シロワニ #マダラエイ

昼間の小笠原とはまったく違う、夜の海の世界。

鳥だけを追いかけていると、なかなかこうした生きものを見る機会はありません。

だからこそ、今回の旅行では仲間たちと一緒にさまざまな分野を見て回れて本当に良かったと思います。

父島に到着してまだ1日目。

それなのに、シジュウカラガン、ハシナガウグイス、シロワニ、マダラエイ、アオウミガメ、そしてザトウクジラまで見ています。

もう少し落ち着いてくれ、小笠原。

こちらの処理能力が追いつきません。

26日:ハートロックを目指して父島の森へ

ハートロック
ハートロック

翌日は、島内を歩き回るためにハートロックツアーへ参加しました。

ハートロックは父島南部にある千尋岩の通称です。

その名の通り、海側から見るとハート型に見えることで知られています。

ただし、今回の目的は単純にハート型の岩を見ることではありません。

その周辺に広がる森を歩き、小笠原ならではの生きものを観察すること。

そして何より、アカガシラカラスバトを見ることでした。

ハートロック周辺は生態系保護地域に指定されているため、自由に歩き回れる場所ではありません。

ガイドさんと一緒に森へ入ります。

森の中に広がる小笠原独自の世界

林内に入ると、まず目につくのが植物です。

私は植物が専門ではないので、細かい分類については仲間に頼りっぱなしでした。

それでも、本土の森とは明らかに違う。

見慣れない植物が次々と出てきます。

その中でも印象に残っているのがシマウツボです。

シマウツボ
シマウツボ

小笠原固有の寄生植物で、かなり限られた場所にしか生息していません。

普段の鳥見では、どうしても鳥を探して上ばかり見てしまいます。

しかし、植物の専門家と一緒に歩いていると、足元にも見逃せないものが大量にあることに気付かされます。

タコノキなど、小笠原らしい植物も次々に登場。

タコノキ
タコノキ

「鳥を探しながら植物も見る」というより、もはや「見るものが多すぎて忙しい」という状態です。

そして、森の中で存在感を放っていたのが、植物だけではありませんでした。

戦跡です。

森の中に残る戦争の痕跡

戦跡

小笠原諸島は、第二次世界大戦において激しい戦闘の舞台となった場所です。

そのため、森の中には当時の戦跡が数多く残されています。

植物に覆われながらも、人工物が突然姿を現します。

建物の跡。

何かに使われていたと思われる設備。

当時のものと思われる構造物。

自然の中を歩いているつもりでも、突然、戦争の痕跡が目に飛び込んできます。

戦跡

年月が経って植物が周囲を覆っているため、現在の風景だけを見ると静かな森です。

しかし、そこにはかつて人がいて、戦争があった。

そのことを、残された構造物が無言で伝えてきます。

小笠原の自然を楽しむだけではなく、こうした歴史まで含めて島を見られるのは、ガイドツアーならではだと思います。

そして、そんな森を歩いていると、ついに今回の最大の目的が姿を現しました。

アカガシラカラスバトです。

ついに出会ったアカガシラカラスバト

アカガシラカラスバト

アカガシラカラスバトです。

小笠原諸島を代表する固有の鳥で、私が今回の旅行で絶対に見たかった鳥の一つでした。

ビジターセンターで剥製を見たときから「何としても見たい」と思っていたので、実際に森の中で出会えた瞬間の嬉しさはかなりのものです。

アカガシラカラスバトは、小笠原の固有亜種で、絶滅が危惧されています。

2005年当時には30~40羽ほどまで減少していましたが、保全活動によって2018年時点では約600羽まで回復していました。

数字だけを見ると「増えた」と感じます。

しかし、一度そこまで個体数が減少した種であることを考えると、今後も継続した保全が必要なのだろうと思います。

域外飼育などによって得られた知見も活かしながら、今後もこの鳥が小笠原の森で暮らし続けられることを期待したいところです。

それにしても、実際に野生の個体を見ると感慨深い。

図鑑や剥製ではなく、目の前の森で生きている。

それだけで、わざわざ小笠原まで来た価値があったと感じました。

その後もツアーは続きます。

ガイドさんが植物や戦跡について解説してくれる一方、なぜか私も鳥について解説する場面がありました。

専門分野が違うメンバーで行くと、こういう展開になるのも面白いところです。

そんな感じで、いろいろなものを観察しながら森の中を進んでいきました。

ハートロックの頂上へ

ハートロックからの景色
ハートロックの頂上から見える景色

そして、ついにハートロックの頂上へ到着。

目の前に広がったのは、父島を取り囲む広大な海でした。

森の中を歩き続けた後だったこともあり、開けた場所に出た瞬間の解放感はかなりのもの。

海と空がどこまでも続いているように見えて、思わず立ち止まってしまいました。

「心が洗われる」という表現がぴったりの景色です。

……ただし、肝心の景色を撮影し忘れました。

なぜか。

鳥を探していたからです。

せっかくハートロックまで来ているのに、私の頭の中は景色より鳥。

鳥屋とは、そういう生き物です。

ハートロックの頂上は周囲が開けているため、空を見渡すには絶好の場所でした。

ここで狙うのはもちろん、オガサワラノスリ。

小笠原諸島を代表する猛禽類です。

せっかくここまで来たのだから、ぜひとも姿を見たい。

そう思って空を見上げ続けます。

しかし、なかなか見つかりません。

結局、ハートロックの頂上ではオガサワラノスリを確認できないまま、帰路につくことになりました。

普通なら少し残念な気持ちになりそうなところですが、すでにアカガシラカラスバトを見ています。

満足度としては十分すぎるほどでした。

ところが、帰り道でも諦めずに空を見上げ続けていると、突然それらしい鳥影が。

高空を飛翔するオガサワラノスリでした。

オガサワラノスリ

しかも、1羽ではありません。

なんと3羽。

距離があったため、写真としては完全な証拠写真です。

それでも構いません。

初めての小笠原で、オガサワラノスリを3羽も確認できた。

それだけで十分です。

「見られた」という事実が何より嬉しい。

小笠原まで来て、憧れだった鳥たちを次々と見ることができています。

この時点で、かなりウキウキでした。

その後は、そのまま森を抜けて宿へ戻りました。

夜の父島でオガサワラオオコウモリを探す

夕食を食べた後は、再び仲間たちと行動を分けました。

釣り組と、オガサワラオオコウモリを探す組です。

私は当然、後者。

昼間は森の中を歩き回りましたが、夜は夜で別の生きものを探します。

狙いは小笠原を代表する哺乳類、オガサワラオオコウモリ。

夜行性なので、昼間とは違った探し方が必要になります。

怪しそうな場所を探しながら歩いていると、まず姿を見せたのが夜行性のクモでした。

アシダカグモです。

アシダカグモ
アシダカグモ

本土でも見かけることがありますが、もともとの生息地はインド周辺と考えられており、現在では世界各地に分布しています。

小笠原でも外来種として定着しています。

世界中に広がっていることだけを考えると、ある意味ではすごい生きものです。

もちろん、外来種なので「すごい」で済ませてはいけないのですが。

そして、もう一つ見つけたのがヤモリです。

小笠原諸島にはオガサワラヤモリという名前のヤモリがいます。

ヤモリ
オガサワラヤモリ

ところが、このオガサワラヤモリも外来種です。

「オガサワラ」という名前が付いているのに外来種。

初めて知ったときは、かなりややこしいなと思いました。

固有種が多く、独自の生態系が形成されている小笠原ですが、一方では外来種の問題も抱えています。

実際に夜の島を歩いてみると、そうした一面も見えてきます。

ただ、肝心のオガサワラオオコウモリはなかなか見つかりません。

それらしい場所を探して歩き回りますが、姿は確認できず。

結局、この日は諦めることにしました。

釣り組の成果をみんなで味わう

釣り組による釣果
釣り組の釣果の一部

オガサワラオオコウモリを諦めた後は、釣り組と合流。

こちらはかなり成果があったようです。

釣果を見せてもらうと、なかなかの量。

同行メンバーの中には魚の専門家がいたのですが、彼は魚の識別だけでなく、当然のように釣りもうまい。

魚のことを知っているからこそ、狙う場所や魚の行動も分かるのでしょう。

「専門家って強いな」と改めて感じました。

鳥については私が多少詳しい一方で、魚については完全に彼にお任せ。

こういう専門分野の違うメンバーでの旅行は、本当に面白いです。

宿に戻った後、その彼が釣ってきた魚を洗っていると、思わぬ出来事が起こりました。

「月曜から夜ふかし」のスタッフがやってきたのです。

小笠原諸島 月曜から夜ふかし

実は、行きのおがさわら丸に同じ便で乗っていたことには気付いていました。

まさか同じ島で再び会うとは思っていませんでしたし、ましてやインタビューされるとは。

小笠原という、東京から24時間かけて行く島でテレビ番組のスタッフに声を掛けられる。

なかなか経験できることではありません。

旅行先では、こういう予想外の出来事が起こるのも面白いところです。

その後は、釣り組が持ち帰った魚をみんなでいただきました。

自分たちで釣った魚を、その日のうちに仲間と食べる。

これもまた、島で過ごす時間ならではの楽しみです。

昼間は小笠原固有の鳥を追いかけ、夜は外来種を観察し、最後は仲間が釣った魚を食べる。

一日を振り返ってみると、かなり濃密な一日でした。

そして、この時点ではまだ旅行は終わっていません。

翌日は、今回の小笠原旅行でもう一つの大きな目的地へ向かいます。

狙うのは、母島にしか生息しないメグロ。

小笠原の鳥見旅行は、まだまだ続きます。

27日:母島へ、憧れのメグロを探す

ははじま丸のチケット

父島で迎えた4日目。

この日は、他のメンバーがまだ寝ている中、古生物大好きマンを連れて母島へ向かいました。

目的はもちろん、メグロです。

小笠原諸島に来たからには、どうしても見ておきたい鳥でした。

メグロは日本の固有種で、小笠原諸島の中でも母島列島を中心に生息しています。

小笠原を代表する鳥の一種であり、今回の旅行を計画した段階から「絶対に見たい鳥」の筆頭候補でした。

ただし、この日はあまり天候に恵まれていません。

雨が降り続いており、母島へ向かう航路探鳥も諦めざるを得ないほど。

せっかく母島まで行くのに、この天気はなかなか厳しい……。

それでも、ここまで来て諦めるわけにはいきません。

母島に到着すると、やはり雨。

天気は回復する気配を見せませんでしたが、双眼鏡とカメラを持って林内へ入っていきました。

外来種が目立つ母島の林道

ドブネズミ
ドブネズミ

林内を歩き始めて、まず目に入ったのが外来種です。

小笠原諸島は、固有種の多さで知られる一方、外来種による生態系への影響も大きな問題になっています。

実際に歩いてみると、その存在をかなり身近に感じました。

道を歩いていると、ドブネズミが頻繁に横切ります。

本土でも見慣れた動物ではありますが、小笠原という特殊な環境で見ると、また違った印象を受けます。

そして、もう一つ強烈だったのがアフリカマイマイです。

アフリカマイマイ

とにかく大きい。

林道を歩いていると、そこら中にゴロゴロしています。

戦前に薬用目的などで持ち込まれたものが増殖し、現在では小笠原を代表する外来生物の一つになっています。

写真を見れば大きさが伝わると思いますが、当時使っていたTGの縦方向と同じくらいのサイズ。

「これ、カタツムリだよな……?」と思ってしまうほどの迫力です。

普段の鳥見では、どうしても空や木の上ばかり見てしまいます。

しかし、こういう場所では足元にも面白いものが転がっています。

小笠原では、鳥だけを見ていてはもったいない。

そう感じさせられる道中でした。

母島に残る戦跡

さらに林内を進んでいくと、戦跡が現れます。

父島でも戦跡を目にしましたが、母島でも第二次世界大戦の痕跡が数多く残されていました。

かつて使用されていたと思われる倉庫のようなもの。

戦跡
戦時中使われていたであろう倉庫?

何に使われていたのか分からない設備。

そして、何かのメーターらしきもの。

戦跡
何かのメーター?

いずれも、現在の静かな森からは想像しにくい過去を感じさせるものです。

その中でも特に印象に残ったのが、静沢101高地防空砲台です。

静沢101高地防空砲台

林内から海に向かって設置された防空砲台で、実際にここで戦争が行われていたことを強く感じさせます。

これまでにも戦跡を見た経験はありましたが、小笠原で見る戦跡は少し違いました。

自然が濃い場所だからこそ、植物に覆われながら残る人工物が非常に目立ちます。

森の中を歩いていると、目の前に突然現れる。

そのギャップが強烈でした。

「ここで本当に戦争があったんだな」と、実感させられます。

そんな戦跡を見ながら歩いていると、いよいよ今回の本命が近づいてきました。

オガサワラヒヨドリ、そしてメグロ

オガサワラヒヨドリ
亜種オガサワラヒヨドリ

最初に姿を見せてくれたのは、オガサワラヒヨドリでした。

本土で見慣れているヒヨドリとは異なる、小笠原の亜種です。

本土のヒヨドリより黒みが強いとされていますが、この日は雨。

さらに林内ということで光量もかなり少なく、正直なところ、撮影した写真だけでは細かな特徴をじっくり確認するのは難しい状態でした。

それでも、小笠原まで来てオガサワラヒヨドリを見られたというだけで嬉しいものです。

そして、ヒヨドリを観察していると、聞き慣れた声が聞こえてきました。

メジロです。

メジロそのものは本土でも珍しくありません。

しかし、小笠原では話が変わります。

今回探しているメグロは、メジロの群れに混ざって行動することがあります。

そのため、メジロの群れを見つけたら、ただ「メジロだ」と終わらせるわけにはいきません。

一羽ずつ注意深く確認していきます。

そして、近づいてきたメジロの群れを観察していると……。

いました。

メグロです。

メグロ
メグロ

ついに出会えました。

日本の固有種であり、小笠原諸島にしか生息していない鳥。

ずっと見たかった鳥が、目の前にいる。

しかも、状況は決して良くありません。

雨が降っている。

林内で暗い。

そして、動きが速い。

写真を撮るにはかなり厳しい条件です。

そんな中で、なんとか証拠写真を残すことができました。

正直、写真の出来をどうこう言えるような状況ではありません。

それでも十分です。

「見た」という事実が何より大きい。

これで、小笠原諸島の陸域で見たかった鳥は、一通り見ることができました。

アカガシラカラスバト。

オガサワラノスリ。

ハシナガウグイス。

そしてメグロ。

今回の旅で狙っていた鳥たちが、次々と目の前に現れてくれました。

もう、この時点でかなり満足です。

「今ここで帰っても後悔しないな」と思えるくらいでした。

とはいえ、帰りの船の時間は決まっています。

母島での滞在時間は限られているので、後ろ髪を引かれながら林内を出て港へ向かいました。

ははじま丸で航路探鳥

航路探鳥
塩対策

母島には9時半に到着し、父島へ戻る船は14時発。

滞在時間は決して長くありません。

それでも、メグロを見るという最大の目的を達成できたので、満足感はかなり高い状態でした。

そして、帰りの便では天候が回復。

行きでは雨のため諦めた航路探鳥を、帰り道で楽しむことができました。

船上では、もちろん海鳥を探します。

小笠原の航路は、陸上とはまったく違う鳥見ができるのが面白いところです。

ただし、船の上は風が強い。

そして塩も飛んできます。

カメラや双眼鏡を扱う身としては、なかなか気を使います。

そんな中、船と並んで飛んでくれたのがカツオドリでした。

カツオドリ
カツオドリ

かなり愛想の良い個体で、船の近くを飛び続けてくれます。

これは撮れる。

そう思ったのですが、残念ながら煙にまみれてしまい、良い写真は撮れませんでした。

近かっただけに悔しい。

鳥見では、こういうことがよくあります。

「最高の距離なのに、最高の写真が撮れない」。

これもまた、鳥見です。

父島へ戻ると、宿で少し休憩。

すると、宿のオーナーからBBQのお誘いがありました。

小笠原最後の夜はBBQ

BBQ

前日にハートロックツアーで一緒になった別グループも参加し、みんなでBBQを楽しみました。

肉だけではありません。

カジキなど、小笠原らしい魚も焼いていただきました。

旅先で食べるBBQは、それだけでも美味しいものです。

それが小笠原となると、さらに特別感があります。

数日前に初めて会った人たちと、同じ景色を見て、同じ生きものを探して、最後には一緒にBBQを食べている。

旅というのは、こういう偶然が面白いですね。

小笠原で過ごす最後の夜。

明日はもう帰らなければなりません。

そう考えると、少し寂しくなってきました。

28日:南島とザトウクジラ

PINK DOLPHIN

翌日は、南島とホエールウォッチングです。

この日は、おがさわら丸ではなく、PINK DOLPHINという船に乗り込みました。

名前の通り、ピンク色のかわいらしい船です。

前日までの鳥見とは少し趣向を変えて、この日は海の生きものを中心に楽しみます。

とはいえ、鳥屋なので鳥を探すことも忘れません。

南島へ向かう

南島

船が出港すると、周囲の海を見渡しながら南島を目指します。

この時期はザトウクジラが見られるシーズン。

船上では、誰かが「いた!」と言わないか、周囲の乗客の様子まで気になってしまいます。

しかし、行きの航路では鯨類を見つけることができませんでした。

そのまま南島へ向かい、上陸します。

南島の扇池
扇池

南島は、サンゴ礁の隆起と沈降によって形成された島です。

地形そのものも非常に特徴的で、島を歩いているだけでも「普通の島とは違うな」と感じます。

さらに南島は、カツオドリやオナガミズナギドリ、アナドリ、ウミガメ類などの繁殖地としても重要な場所です。

ただし、今回は繁殖シーズンではありません。

そのため、鳥はほとんど見られませんでした。

鳥屋としては少し寂しいところですが、繁殖地を訪れる以上、鳥たちがいない時期に静かに歩けることには意味があります。

人間が楽しむためだけの場所ではありませんからね。

扇池とヒロベソカタマイマイ

ヒロベソカタマイマイ 南島

南島で特に有名なのが扇池です。

景観の美しさはもちろんですが、私にとって興味深かったのは、ヒロベソカタマイマイの化石が見つかることでした。

ヒロベソカタマイマイは、1000年以上前に絶滅した陸貝です。

そんな昔に絶滅した生きものの化石が、現在でもかなりきれいな状態で残っています。

鳥見をしていると、生きている生きものに目が向きがちです。

しかし、南島では「かつてここにどんな生きものが暮らしていたのか」という過去にも目を向けることができます。

古生物好きの同行者にとっても、かなり面白い場所だったのではないでしょうか。

生きている鳥を見る私と、化石を見る古生物好き。

同じ島でも、見ているものが違う。

こういう専門分野の違う人間同士で旅行する面白さを、改めて感じました。

南島には、扇池のほかに陰陽池という小さな池もあります。

そして、そこに一羽の鳥がいました。

タカブシギです。

タカブシギ

春の渡りの途中だったのでしょう。

南島で鳥はほとんど見られないと思っていたので、たった一羽でも非常にありがたい存在です。

小笠原まで来て、渡り途中のタカブシギを見る。

これもなかなか面白い出会いでした。

ザトウクジラのブリーチング

南島を後にし、父島へ戻ります。

ここからが、この日のハイライトでした。

出発してすぐ、親子と思われるザトウクジラが近くに現れました。

まず見せてくれたのがブロー。

ザトウクジラのブロー
ブロー:いわゆる潮吹き

いわゆる潮吹きです。

そして、ペダンクルアーチ。

ザトウクジラのペダンクルアーチ
ペダンクルアーチ:深く潜水する際の予備動作

深く潜水する前に、尾柄部を大きく持ち上げる行動です。

この後、どこから浮上してくるのか。

船上で期待しながら待ちます。

数分後。

一頭のザトウクジラが、豪快にブリーチングしました。

いわゆるジャンプです。

ここまででも十分すごい。

しかし、まだ終わりではありません。

おそらく先ほどの親個体だろうと考え、子どもも続いて跳ぶのではないかと期待します。

船は当然揺れています。

カメラを構えながら、可能な限り体を安定させます。

「来い、来い……」

そんな感じで待っていると、数十秒後。

親子そろってブリーチング。

まさかの展開です。

しかも、親のブリーチングをしっかり撮影することができました。

ザトウクジラのブリーチング
ブリーチング:いわゆるジャンプ

これは本当にすごかった。

今回の旅行では、鳥を目的に小笠原へ来ています。

しかし、最後の最後にこれほど強烈なものを見せられるとは思いませんでした。

「最終日にこんなお土産をもらっていいのか?」

本気でそう思いました。

小笠原に来るだけでも大変です。

そこから天候や海況に左右されながら生きものを探します。

そして最後に、親子のザトウクジラによるブリーチング。

あまりにも出来すぎています。

これ以上を求めたら、さすがに贅沢でしょう。

最高の思い出になりました。

28日:旅の締めくくりと、小笠原ならではの別れ

ホエールウォッチングを終え、宿へ戻ります。

帰宅の準備をしなければなりません。

楽しい時間は、本当にあっという間です。

荷物をまとめても、船の時間までは少し余裕がありました。

そこで、最後に小笠原世界遺産センターへ向かいました。

小笠原世界遺産センター

小笠原世界遺産センター

小笠原世界遺産センターでは、小笠原諸島の自然や世界自然遺産としての価値、そして保全の取り組みについて紹介されています。

個人的に非常に面白かったのが、解説展示です。

私は博物館や動物園、水族館などに行くと、展示をかなり細かく読んでしまうタイプです。

普通なら「ちょっと説明が多いな」と感じるような展示でも、むしろ全部読みたくなります。

そんな私から見ても、ここの展示はかなり良かったです。

小笠原世界遺産センターの展示

専門的な内容を扱っているのですが、専門用語をそのまま並べるのではなく、文字や図を使って噛み砕いて説明しています。

しかも情報量が多い。

「めちゃくちゃ読んでいるのに、なぜか疲れない」

そんな感じです。

小笠原の自然を知った上で島を歩いてきたからこそ、「あの場所はこういう意味があったのか」と答え合わせをしているような感覚もありました。

さらに、葉山氏によるオガサワラノスリ研究のポスターも展示されていました。

研究成果が好きな人には、かなり刺さる展示です。

学会のポスター発表と違って、その場で研究者に質問できないのは残念ですが、研究内容をじっくり読めるだけでも十分面白い。

私のように展示を隅々まで読んでしまう人は、ぜひ時間を取って見てほしい場所です。

ビジターセンターと世界遺産センターの違い

ちなみに、小笠原ビジターセンターと小笠原世界遺産センターは、どちらも小笠原の自然について知ることができます。

ただし、役割や管理者は異なります。

小笠原ビジターセンターは東京都の施設。

小笠原世界遺産センターは環境省の施設です。

旅行者からすると「どちらも自然について学べる場所」という印象になりやすいですが、実際に両方訪れてみると、それぞれ違った視点から小笠原を見ることができます。

個人的には、せっかく小笠原まで来たのであれば、両方見ておくのがおすすめです。

いよいよ父島を離れる

宿へ戻り、荷物をまとめます。

そして、いよいよ二見港へ。

帰り道で、島寿司を購入しました。

島寿司は、醤油ベースのタレに魚を漬け込み、酢飯で握った寿司です。

わさびではなく、からしを使うのが特徴。

小笠原を離れる前に、最後の島グルメを楽しみます。

ただ、慌てていたため写真を撮るのを完全に忘れていました。

最後まで鳥見旅行らしく、撮影するものと撮影しないものの優先順位がおかしい。

そんなことをしているうちに、乗船時間が迫ってきます。

ザックを背負い、島寿司を持って二見港へ。

そこで待っていたのは、旅の中でも特に印象に残った光景でした。

一緒にハートロックツアーを歩いた別グループの方々や、宿のオーナーと写真を撮り、いよいよ乗船します。

集合写真

おがさわら丸に乗り込み、最上階のデッキへ向かいました。

そこには、すでに多くの乗客が集まっています。

みんな考えていることは同じでした。

小笠原との別れを惜しむためです。

港には、父島の民宿のオーナーたちが並んでいます。

船に乗る人。

島に残る人。

両者が向かい合うような形になっていました。

そして、おがさわら丸が動き始めます。

すると、港にいる人たちが一斉に手を振り始めました。

船の上からも手を振り返します。

ここまでは、想像できる別れの光景です。

しかし、小笠原のすごいところはここからでした。

船でおがさわら丸を追いかけながら、最後まで手を振ってくれる人がいる。

そして、海へ飛び込んでまで別れを表現してくれる人までいる。

「そこまでやるのか……!」

と思いました。

でも、そんなの感動するに決まっています。

数日間しか滞在していない旅行者に対して、ここまで盛大に送り出してくれる。

小笠原の人たちの温かさを、最後の最後に強烈に感じました。

船がどんどん港から離れていきます。

それでも、しばらくの間は手を振り続けます。

最後まで残って手を振ってくれた宿のオーナーの姿も、今でも強く印象に残っています。

最後まで手を振ってくれたオーナー
他の人が帰った後も最後まで手を降ってくれたオーナー:黄色の服

旅の中で見た鳥。

美しい海。

戦跡。

固有種。

クジラ。

どれも素晴らしい思い出です。

しかし、旅の最後に残ったのは、人とのつながりでした。

小笠原という島そのものだけでなく、そこで出会った人たちまで含めて、一つの旅だったのだと思います。

まさに最高のグランドフィナーレでした。

28日:最後の航路探鳥、そして竹芝へ

感傷に浸っている暇もありません。

おがさわら丸が父島を離れたら、再び鳥見の時間です。

行きも帰りも、せっかく24時間近い船旅をするのだから、できる限り鳥を探します。

船上では、鳥を探しながら島寿司を食べ、持参した蒙古タンメンも平らげました。

小笠原の最後の食事としては、なかなか濃い組み合わせです。

ただ、食後は急激に眠くなりました。

集中力が続いたのは、せいぜい1時間ほど。

これまでの疲労が一気に押し寄せたのでしょう。

毎日朝から晩まで生きものを探していたので、体力的にはかなり消耗していました。

船の揺れも相まって、猛烈な睡魔が襲ってきます。

結局、早々に鳥見を切り上げて眠ることにしました。

生きもの探しは楽しいですが、体力との勝負でもあります。

このあたりは、若かった当時だからこそできた旅だったのかもしれません。

29日:最後の鳥見

船上から見る朝日
船上から見える朝日

そして、最終日。

竹芝桟橋へ到着する前に、もう一度だけ鳥を探します。

夜明け前に起床し、船上へ。

ハートロックツアーで一緒になった方々と、一緒に鳥見をする約束をしていたので、早めに準備しておきました。

少しずつ空が明るくなっていきます。

船上から見る朝日は、それだけでもかなり綺麗です。

しかし、鳥屋としては景色だけを見ているわけにはいきません。

海を見渡します。

そして、早々にコアホウドリが現れました。

コアホウドリ

見事なダイナミックソアリングを披露してくれます。

船の周囲を飛び回る姿を眺めていると、「ああ、小笠原の旅も本当に終わるんだな」と実感してきました。

そのほかにもクロアシアホウドリ、アホウドリ、カツオドリ、ミズナギドリ類などが登場。

最後まで海鳥を楽しませてもらいました。

船が東京へ近づくにつれて、当然ながら小笠原らしい海の景色も少しずつ変わっていきます。

到着が近づいてきたので、荷物をまとめ、いつでも下船できるようにしました。

それでも、最後まで外を眺めていたくなります。

船内で販売されていた島塩ソフトクリームを食べながら、海を眺めることにしました。

島塩ソフトクリーム
島塩ソフトクリーム

ただし、これは個人的には少し塩気が強すぎました。

塩好きにはたまらないのでしょうが、私にはちょっと厳しい。

ソフトクリーム全体に均一に塩味が入っているというより、大量に塩がかかっている部分と、ほぼソフトクリームだけの部分が分かれていたのも原因かもしれません。

「ここ、塩の塊では……?」

と思いながら食べました。

小笠原最後の味覚としては、なかなか強烈な思い出です。

そんなことをしているうちに、船はどんどん東京へ近づいていきます。

荷物を持って列に並び、下船のアナウンスを待ちます。

そして、いよいよ下船。

竹芝桟橋に降り立った瞬間、5泊6日の小笠原旅行は終了しました。

長かったような、短かったような。

ただ、一つだけはっきり言えることがあります。

めちゃくちゃ濃い6日間でした。

今回の小笠原旅行で見られた鳥

今回の旅行では、竹芝桟橋周辺、おがさわら丸の航路、父島、母島、南島などを含め、合計39種の鳥を確認しました。

シジュウカラガンオオミズナギドリウミスズメ
ヒドリガモアナドリミサゴ
マガモカツオドリオガサワラノスリ
オナガガモカワウハシブトガラス
コガモアオサギオガサワラヒヨドリ
ホシハジロダイサギハシナガウグイス
キンクロハジロチュウサギメグロ
スズガモオオバンメジロ
カンムリカイツブリムナグロムクドリ
アカガシラカラスバトタカブシギジョウビタキ
コアホウドリキョウジョシギイソヒヨドリ
クロアシアホウドリミツユビカモメスズメ
アホウドリユリカモメハクセキレイ
一部、亜種名で記載しています

小笠原旅行という特殊な環境を考えると、個人的にはかなり楽しめた鳥見でした。

特に印象に残ったのは、やはり小笠原ならではの鳥たちです。

シジュウカラガンとのまさかの出会いから始まり、アカガシラカラスバト、オガサワラノスリ、ハシナガウグイス、オガサワラヒヨドリ、そしてメグロ。

今回の旅で見たかった鳥を、ほぼすべて見ることができました。

なかでもメグロは、雨の中での観察に。

条件としては決して良くありませんでしたが、それでも「見た」という事実には大きな意味があります。

一方で、航路探鳥については少し心残りもあります。

天候や海況によってデッキに出られないタイミングが多く、十分に探鳥できなかった時間もありました。

船は揺れます。

雨も降ります。

風も吹きます。

海鳥を探すには、かなり厳しい条件です。

こればかりは運の要素が大きいでしょう。

だからこそ、今回見られなかった鳥については、また別の機会に挑戦したいと思います。

ちなみに、この旅行の数カ月後には、オガサワラカワラヒワが種分化することを示した論文が発表されました。

当時はまだ今ほど注目していなかった鳥ですが、今振り返ると「次に小笠原へ行くなら、絶対に狙いたい」と思います。

鳥見は、一度行ったら終わりではありません。

新しい研究が発表されれば、見たい鳥も変わります。

季節が変われば、見られる鳥も変わります。

同じ島でも、訪れるタイミングによってまったく違った鳥見ができるはずです。

そう考えると、小笠原にはまだまだ宿題が残っています。

小笠原諸島へ行きたい学生へ

最後に、当時大学院生だった自分から、これから小笠原諸島を目指す学生へ。

行けるのであれば、学生のうちに行ってください。

小笠原は、片道約24時間。往復だけで約48時間かかります。

社会人になってから1週間近く休みを取るのは、決して簡単ではありません。

お金も必要です。私自身、当時決して裕福ではありませんでしたが、それでも工面して行きました。

そして今振り返ってみても、あのとき行って本当に良かったと思っています。

小笠原で得られるものは、珍しい鳥だけではありません。

固有種、外来種、植物、海洋生物、戦跡、地形、研究や保全活動。

さまざまな分野の仲間と訪れれば、同じ景色を見ていても、それぞれ違うものに気付きます。

小笠原は、一つの専門分野だけでは味わい尽くせない、島そのものが巨大なフィールドです。

私自身、シジュウカラガンを見つけた瞬間、メグロを見つけた興奮、ザトウクジラの親子がブリーチングした光景、そして二見港での別れを、今でも鮮明に覚えています。

写真だけでは残せない記憶があります。

船の揺れ、雨の中で鳥を探した感覚、島の空気、そして最後まで手を振ってくれた人たちの姿。

5泊6日は長いようで、終わってみればあっという間でした。

だからこそ、もし「いつか小笠原へ行きたい」と思っている学生がいるなら、その「いつか」を少しだけ前倒ししてみてください。

お金も時間も必要です。

船も長いです。

それでも、わざわざ24時間かけて行く価値がある場所だった。

それが、5泊6日の小笠原旅行を終えた私の率直な感想です。

そして私も、まだ見ていない鳥や生きものを求めて、いつかもう一度小笠原へ行きたいと思っています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

気になる方はコストに関しても、併せてご覧ください。

意外と安い?小笠原諸島の旅行にかかった費用
小笠原諸島の旅行でかかった費用は145313円でした。内訳は記事内をご覧ください。

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