2025年8月5日。
晴天の夕暮れ、仕事を終えてホテルに荷物を置くと、そのまま駐車場でロードバイクを組み立てました。
「今日の残り時間、どう楽しもうか」と少しだけ考えつつ、恵那峡を目指すことにします。
距離は片道6kmほど。
夕暮れの光もまだ明るく、走り出すには十分な時間です。
片道6kmの快走

タイヤの空気を整え、ペダルを踏み始めると、空気が軽く感じられます。
まだ太陽は高めで、日差しはあるものの不快さはなく、ほどよい坂道のアップダウンが心地よいリズムを作ります。
夕暮れに向かう明るさの中を走るのは不思議な爽快感があります。
「今日の終盤にこの解放感、なかなか贅沢だな」と思いながら漕ぎ続けました。
恵那峡第2駐車場の公衆トイレ裏に設置されたサイクルラックへ自転車を預け、ここからは徒歩で散策します。
恵那峡に到着

まずは簡単に恵那峡の概要をおさらいしておきます。
恵那峡は、木曽川を大井ダムでせき止めて生まれた人造湖と、その周辺の渓谷を指す場所です。
奇岩・怪岩が織りなす景観が知られ、春の桜、夏の緑、秋の紅葉、冬の水鳥と、年間を通して多くの見どころがあります。
この景観を形づくったのが、大正時代に建設された大井ダムです。
1920年に工事が始まり、1924年に完成。関東大震災や度重なる洪水など数々の困難を乗り越え、福沢桃介の主導で日本初の本格的ダム式発電所として誕生しました。
当時としては先進的な技術を投入した重力式コンクリートダムは、今なお地域の重要な電力供給源であり、観光資源でもあります。
にぎわい広場を歩く

坂道を少し下り、にぎわい広場へ向かいます。
イベントスペースとして使われる場所ですが、この日はすでに全ての店が閉店済み。
ビジターセンターも営業時間外で、学びの時間はそっと翌日に持ち越されました。
ただ、モニュメントは閉店しません。

ENAK Oモニュメントがあり、人が入ってYの字を作るあのスタイルも健在です。
もちろん一人旅なので、そこは静かに通り過ぎました(セルフY字は勇気が要ります)。
電力王・福沢桃介翁像

散策を進めると「電力王」福沢桃介翁像の前にたどり着きます。
大井ダムを築き、日本の電力供給の礎を作った人物であり、その功績により恵那峡という景観が生まれたと言っても過言ではありません。
像の前で立ち止まり、夕暮れの光を浴びる背中を眺めながら、「一つの意思が風景を変えることもあるのか」と静かに思いを巡らせました。
弁財天(弁天島)

さらに奥へと歩き、湖面に浮かぶように佇む弁天島へ。
もともとは川沿いの小高い山に祀られていた弁財天が、ダムによる水没を避けてこの島に遷座したという歴史があります。
水の神を祀るにはふさわしい場所で、周囲の静けさは不思議な落ち着きをもたらしてくれました。
伝説の武将の話や大フジの物語など、多くの文化や歴史が絡み合う背景を思うと、ただの小島ではない奥行きが感じられます。
北原白秋歌碑へ

続いてさざなみ広場へ移動し、北原白秋の歌碑を訪れます。
童謡作家として知られる彼が恵那峡を題材に詠んだ歌が残されており、その一節が刻まれています。
自然を前にすると、言葉を残さずにはいられない気持ちは少しわかります。
夕暮れの恵那峡には、どこか詩心を刺激する空気があります。
紫陽花と蓮を横目に帰路へ

帰り道では、蓮と紫陽花が控えめに咲いていました。

たくさん歩いた後に見る薄い色の花は、ちょっとしたデザートのように心を落ち着かせてくれます。
夕暮れの最後の光が水面に反射し、サイクリングを終えるのが惜しいほどの風景でした。
爆速の帰宅と小さな余韻

ホテルまでの帰りはほとんど下り。スピードに乗りながら、短いながらも濃い時間だったことを噛みしめました。
仕事終わりの短距離サイクリングに、歴史探訪と夕景散策が加わると、ちょっとした旅が生まれます。
その日は満足感を胸に、ゆっくりとホテルへ戻りました。


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